技術コラム【吐出の羅針学】接着剤の硬化方法
接着剤の起源は数千年前とも数万年前ともいわれていますが、2つの物を貼り合わせるという基本的な目的は今も昔も変わっていません。しかし、その接着技術はここ数十年の間にめざましく進化し、接着する物の材質や用途が大きく変わっただけでなく、使用環境によって接着剤の成分を使い分けたり、硬化後の強度の調整などが行われるようになってきました。そこで、今回は多種多様化してきた接着剤の基本となる『硬化方法』について紹介します。
接着剤の硬化原理
大きく次の2つに分けられます。
A)機械的接着
B)化学的接着
Aは接着面の凹凸に入り込んで固まるいわば『投錨効果』を狙ったもので、Bは接着面で対象物の表面を化学反応させながら(接着面を溶かしながら)硬化することで接着する方法です。最近ではAとB両方の硬化原理を用いることが増えています。
接着剤の分類
さまざまな分類方法がありますが、『主成分による分類』では、以下のようになります。最近ではほとんどの接着剤が『合成系』に含まれていますので、その『合成系』の接着剤をさらに硬化方法により分類しながら、それぞれの特徴・用途を紹介していきます。
合成系接着剤の特徴・用途
(1)室温硬化型
最も多く使われるタイプで、さらに以下に分類されます。
A:溶液乾燥型
最もなじみが深いものに『木工用接着剤』や『プラモデル用接着剤』が挙げられます。水分もしくは溶剤が蒸発することで硬化が進みます。
B:湿気硬化型
日曜大工によく使われる『コーキング剤』などはここに含まれ、シリコーンゴム・合成ゴム・特殊ポリマーなどを主成分とし、大気中の水分と反応して硬化が進みます。主成分にシリコーンを使用した接着剤は、耐熱・耐水性に優れている利点を活かし、エンジンなどの生産工程では液状ガスケットとして、また、電子基板の生産工程では短絡防止用の封止剤として、広く使われています。瞬間接着剤もここに含まれますが、被着材に付着している水分と反応して硬化するところが特徴です。
C:硬化剤混合型(二液混合型)
この硬化方法は硬化剤を添加することで強制的に化学反応を起こし硬化させるものです。瞬間接着剤を除く一般的な室温硬化型接着剤では、完全に固化するまで相当な時間がかかりますが、硬化剤混合型(二液混合型)では比較的短時間で固化させることができます。主成分としてはエポキシ系が多いようです。
D:嫌気硬化型
硬化する条件が2つあり、
- 金属イオンが存在する環境下である
- 酸素を遮断した環境下である
がそろうことで硬化を始めます。雄ねじと雌ねじの嵌合部分がイメージしやすいでしょう。
E:UV硬化型
紫外線を照射することで液体内部の分子を活性化させて硬化の連鎖反応を起こさせるタイプの接着剤です。熱を加えることができないワークや環境で速乾性を要求される用途で使われます。しかし、接着させるにはUVを透過させる必要がありますので、光源側の被着材は透明である必要があります。そういう意味では液晶パネルの構造接着には最適と言えるでしょう。
(2)加熱硬化型
接着剤に熱を加えると、もともと含まれている硬化剤が化学反応を起こし硬化が始まります。例えば自動車のドアパネルにはアウターとインナーがあり、その2枚の間には一液性エポキシ樹脂が塗布されているのですが、塗装後の乾燥工程で加熱されることにより固化します。
(3)熱溶解型
ホットメルト型とも言われ、『一旦溶かしてまた固める』という使い方です。身近なところでは段ボール箱の接着や手芸に使われる『グルーガン』があります。
(4)感圧型
完全に固化せずいつまでも粘着性を保ち、被着材に押し付けることで接着性能を発揮するもので、簡単に言うと粘着テープと考えても差し支えありません。しかし、その粘着力や使用材質など、さまざまな種類が存在します。
(5)再湿型
一旦接着剤で乾燥させた表面にもう一度指定の液剤(水分や有機溶剤など)を塗布することで、接着性能を再現させることができるものをいいます。身近なところでは郵便切手のシール部が最もわかりやすいですね。最近の切手の糊にはポリビニルアルコールという合成樹脂が使われているようです。
これからの接着剤
最近は『機能性接着剤』という言葉をよく聞くようになってきました。接着剤本来の機能に新たな機能を付加するというもので、例えば『放熱効果』『制振効果』などです。これらは工業製品の発展には欠かせない要素であり、今後も次々と新しい材料が接着剤に配合されていくことと思います。
また、最近では異種材料間の接着技術も発展しつつあります。例えば、自動車の軽量化を進める上で、アウターパネルにアルミ材を用いたり樹脂材を用いたりするようになりましたが、強度の面からはインナーパネルはやはり鉄材を用いなくてはなりません。こういう場合、溶接では対応しきれず、どうしても接着剤に頼らざるを得ません。このように、世の中の技術が進歩するとともに接着剤もまた進化し続けることでしょう。